「復職できたのに、なんで前より苦しいんだろう」
そう感じたことはありませんか。通勤だけで全部使い切ってしまうような疲れ。帰宅したら何もできなくて、ソファに倒れ込むだけ。「また休みたい」って思う自分に罪悪感が湧いてきて、「自分はもうダメなのかもしれない」と深夜に布団の中で考え込む——。
これ、決して「弱い人」の話じゃないんです。
カウンセリングの現場にいると、むしろ真面目で責任感が強い人ほどこういう状態になりやすいな、と実感します。「せっかく復職できたのに贅沢だ」と自分を叱り、限界のはるか手前から無理を続けてしまう方が少なくありません。
最近、そういった方を支えるために注目されている考え方があります。「療養・就労両立支援」と呼ばれるものです。治療を続けながら、無理のない形で働き続けるための仕組み——ひとことで言うとそういうことですが、実際にはどんなふうに使われているのか、なぜこれが大事なのかを、現場で見てきたエピソードも交えながらお話しできればと思います。
療養・就労両立支援とは?|「治療しながら働く」を支える仕組み
「しっかり治ってから戻る」という時代は終わりつつある
少し前まで、精神的な不調で休職した場合、「完全に元気になってから復職する」というのが一般的な考え方でした。ところが現実を見ると、うつ病や適応障害というのは、「症状がゼロになった瞬間」というものがなかなかはっきりしない。
ある程度回復してきたから復職してみたけど、仕事に戻ったら波がきた。こういうことが普通に起きるんです。「まだ完全じゃないから復職できない」と待ち続けても、状況が改善しないケースもあります。
そこで注目されているのが「療養しながら、同時に働く」というアプローチです。通院・服薬を続けながら、段階的に職場に戻っていく。そして医療機関と職場が連携して、無理が出てきたら早めに調整する。これが「療養・就労両立支援」の基本的な考え方です。
「復職=ゴール」じゃなかった、という話
Aさん(30代・会社員)の話をさせてください。彼女は適応障害で3か月休職し、主治医から「もう働けそうですね」と言われて復職しました。職場も「無理しないでいいよ」と言ってくれていたし、本人もほっとした。
ところが1か月もたたないうちに、「なんか変だ」と感じはじめました。仕事そのものは普通にこなせている。でも夜になると涙が出てくる。食欲がない。「また壊れていく感じがする」と怖くなって、受診したら「再燃の兆候です」と言われた。
「復職できた」というのは、あくまでスタートラインなんです。本当に大事なのはそこから「続けられる状態」をどう作るか。Aさんのケースはまさに、そこに支援が届いていなかった例でした。
リワークとは何が違うの?
「両立支援」と「リワーク」はよく混同されますが、役割が違います。
リワークは、「復職前の準備」です。精神科デイケアなどを使いながら、生活リズムを整えたり、疲れ方を確認したり、ストレスへの対処を練習したりする。「職場に戻れる体と心を作る場所」とイメージすると近いです。
一方、療養・就労両立支援は「復職後も含めた継続的な支援」です。「職場に戻れたか」だけで終わりではなく、戻ったあとに無理が出ていないか、再発のサインが出ていないか——そこを医療機関と職場が連携しながら見守っていきます。「ゴールのあとを支える仕組み」と言ってもいいかもしれません。
復職したのにしんどい…「働けるけど続かない」が起きる3つの理由
① 「元に戻らなきゃ」で頑張りすぎてしまう
これが一番多いパターンです。
Bさん(40代・管理職)は、うつ病から復職したあと、周囲に気を遣わせまいと必死に「以前の自分」を演じ続けました。遅刻しない、仕事を断らない、残業も断れない。でも内心は「今日もギリギリだ」と思いながら出社している。
2か月ほどたって、ある朝突然起き上がれなくなりました。「何もしていないのに足がガクガクして、玄関まで歩くのが精一杯だった」と後から話してくれました。
回復途中の状態で以前と同じペースを求めると、疲労の回収が追いつかないんですね。それでも「頑張れている自分」を維持しようとするから、限界がきたとき急にガクッとくる。
② 「迷惑をかけているから」と無理をする
時短勤務や業務調整を受けている方は、「周りに申し訳ない」という感情と常に戦っています。
Cさん(30代・女性)は時短勤務中、休憩室でコーヒーを飲んでいるだけで罪悪感を覚えたと言います。「私だけ早く帰るのに、こんなことしていいのか」と思い、少しずつ勤務時間を延ばし、引き受ける仕事も増やしていった。主治医には「体調が安定しています」と報告し続けていましたが、実際は睡眠が乱れていたし、週末は何もできない状態でした。
配慮を受けながら働くことは「弱さ」でもなく「甘え」でもない。でも、その罪悪感が本当に邪魔をするんです。
③ 通勤と人間関係だけでエネルギーが尽きる
仕事の内容以前の問題として、「職場にいる」という状況自体がものすごく体力を使います。
満員電車の騒音・揺れ・混雑。久々に会う同僚への挨拶。「お体大丈夫ですか?」という善意の声かけすら、受け止める側には相当な負荷になることがある。休職期間が長かった場合は特に、その刺激量が休む前と段違いに感じられることがあります。
デイケアで復職支援をしていたとき、あるメンバーが「電車に乗っているだけで涙が出てくる」と打ち明けてくれたことがありました。「何もしてないのにおかしい」と思っていたそうですが、休んでいた体にとって「通勤」は立派な大仕事なんです。
復職後に「また休みたい」と感じるのは甘えではない
1〜3か月で不調が再燃しやすい理由
復職直後は、緊張や責任感で乗り切れることがあります。でも、その緊張は長続きしない。ある時期からふっと糸が緩んで、そこで初めて疲れが出てくる。
新しい業務への適応、人間関係の気遣い、通勤の負荷——これらが少しずつ積み重なっていくと、2〜3か月目あたりで「もう限界かもしれない」という感覚が出やすくなります。これは特別なことじゃなくて、むしろよくあるパターンです。
「なんとか出勤できている」は安心サインじゃないかもしれない
「休まず行けているから、私は大丈夫」——これ、要注意です。
帰宅後に何もできない状態が続いていたり、休日ずっと寝ていたり、日曜の夜が「また明日が来る」と怖くなってきたりしているなら、それは無理が積み重なっているサインかもしれません。
「出勤できている」という事実が、自分の限界を隠してしまうことがあるんです。
責任感が強い人ほど気づきが遅れる
「倒れるまで気づかなかった」という方、本当に多いです。
責任感が強いと、「まだ頑張れる」という判断が優先されてしまう。そして体のサインには気づかないまま突き進んで、ある日突然動けなくなる。
Bさんが「あのとき誰かに止めてほしかった」と言っていたのが忘れられません。止めてもらうためにも、早めに周囲や主治医に状況を伝えることが大切なんです。
療養・就労両立支援では実際にどんなことをするの?
医療機関が行う支援
主治医との相談
「先生、最近眠れなくて」「通勤がしんどくて」——こういった日常の変化を、主治医に遠慮せず話せる関係を作ることがとても大切です。
主治医との診察では、疲労の状態や睡眠の質、通勤負荷や業務量を確認しながら、「今のあなたに合った働き方」を一緒に考えていきます。「仕事に支障はない」と言い続けてしまうと、必要な調整が遅れることもあるので、小さな変化でも話してみてください。
精神科デイケア・リワーク
「デイケアって入院みたいなもの?」と思っている方もいるかもしれませんが、そうじゃないです。
通いで利用するもので、生活リズムの安定・集中力の回復・対人負荷の確認などを行いながら、復職や定着へ向けたサポートをする場所です。Dさんは「正直、最初は恥ずかしかった」と言っていましたが、「同じ経験をしている人に会えて、自分だけじゃないと思えた」と続けました。
疲労や再発サインの確認
「最近なんかイライラしやすい」「眠れなくなってきた」「食欲が落ちた」——これらは、疲労や再燃の初期サインと言われることがあります。
早めに気づいて、早めに相談できると、大事に至らずに済むことも多い。定期的に主治医やスタッフと話せる環境を作ることが、一つの防波堤になります。
職場で行われる支援
時短勤務・段階的復職
復職直後から元のペースに戻ろうとするのは、骨折が治りかけたリハビリ中にフルマラソンを走るようなものです。
最初は短時間から始めて、少しずつ慣らしていく。「軽い業務からスタートして、段階的に仕事量を増やす」という流れが、再休職を防ぐうえでは重要です。
業務調整と残業制限
残業を制限したり、業務量を調整したりする配慮も、両立支援の一部です。「配慮してもらうのが申し訳ない」と感じる方も多いですが、短期的な調整が長期的な安定につながると思って、使える支援は遠慮なく使うことをお勧めしています。
本人が取り組むこと
「頑張りすぎるクセ」に気づく練習
「断れない」「人に頼れない」「完璧を求めてしまう」——この3つが揃っている方は、知らないうちに無理を溜め込みやすい傾向があります。
自分の中のそういうパターンに気づいていくこと自体が、再発予防の大切な一歩です。カウンセリングなどで「なんでこんなに頑張ってしまうんだろう」を一緒に考えていくことも有益です。
「しんどい」と伝える練習
「調子が悪い」と言えない方、本当に多いです。言ったら迷惑になる、言ったら弱く思われる——そういう気持ちはよくわかります。
でも、早めに伝えることが「長く働き続ける」ことに直結します。Eさんはある日、上司に「今日ちょっとしんどいです」とLINEで送ることができて、「それだけで心がだいぶ楽になった」と言っていました。小さな一言でいいんです。
精神科デイケア・リワークで実際に見ているポイント
「働けるか」じゃなく「続けられるか」を見ている
デイケアで支援をしていて感じるのは、「仕事ができる」と「安定して働き続けられる」は別の話だということです。
課題をこなす能力はある。でも、疲れたときにどう休むか、無理しているときに気づけるか、誰かに頼れるか——そういった「働き続けるための力」を確認しながら支援しています。
頑張りすぎる人に起きやすいこと
「あの人は回復が早い」とデイケアのスタッフが感心していたFさんが、復職後2か月で再休職した——という経験があります。
復職準備段階での頑張りが、実は無理を隠していただけだったんです。後から聞いたら「できないって言えなかった」と。「順調そう」に見える方ほど、内側で何かを抱えている場合があります。
知っておきたい疲労サインのリスト
- 朝、目が覚めても体が重くて起き上がれない
- 休日に休んでも、月曜には全然回復していない
- 仕事のことを考えると夜眠れなくなる
- 些細なことでイライラしたり、涙もろくなったりする
こういったサインが続いているなら、「まだ大丈夫」と思わずに、主治医や支援スタッフに話してみてください。
「元に戻る」より、「続けられる自分」でいいんじゃないか
治療しながら働くことは、もう普通のことになってきている
通院しながら働いている方は、今の時代、珍しくも特別でもありません。薬を飲みながら業務をこなしている人は、職場にたくさんいます。「完全に治ってから」と待ち続けることが、かえって回復を遅らせることもある。
「治療しながら、無理せず働いている状態」が、十分な回復のかたちであることも多いんです。
配慮を受けることへの罪悪感について
「自分だけ特別扱いしてもらっていいのか」という気持ち、わかります。でも考え方を少し変えると、配慮を受けながらきちんと働き続けることの方が、会社にとっても長期的にはプラスになるんです。
無理をして短期間で再休職するより、ゆっくりでも安定して働き続ける方が、周囲への貢献度は高い。罪悪感を感じる必要はありません。
一人で抱え込まないでほしい
「また休みたい」「働けるけど続かない」「復職したのになぜかつらい」——これを感じているとしたら、それは甘えじゃなくて、助けを求めていいサインです。
以前、Gさんが相談に来たとき、「誰に言っても無駄だと思っていた」と言っていました。でも主治医に正直に話して、職場に調整を依頼して、デイケアに通い始めてから、「久しぶりに月曜日が来るのが怖くなくなった」と話してくれました。
劇的な変化じゃなくていい。「月曜が少し怖くなくなった」くらいの変化が、実はすごく大きな一歩なんです。
もし今しんどいなら、まず主治医か支援機関に「最近ちょっとしんどくて」と話してみることから始めてみてください。一人で全部抱え込まなくていいですし、あなたが助けを求めることは、弱さではなく賢さです。
よくある質問(F&Q)
Q1. 療養・就労両立支援は、誰でも使えるのですか?
対象は特に限定されているわけではありませんが、主にうつ病・適応障害・双極性障害などの精神疾患や、がん・糖尿病といった慢性疾患を抱えながら働いている方が利用するケースが多いです。「治療中だけど仕事は続けたい」「復職したけど不安が大きい」という状況であれば、まず主治医に相談してみるのが一番の近道です。「自分は対象なのか」と悩む前に、気軽に聞いてみてください。
Q2. 職場に「支援を使いたい」と伝えるのが怖いです。どうすればいいですか?
これは本当によく聞かれます。「言ったら評価が下がるんじゃないか」「弱いと思われないか」と心配される方がほとんどです。ただ、最初から全部話す必要はありません。まず主治医に相談して、「職場への伝え方」を一緒に考えてもらうのが現実的です。主治医が意見書を書いてくれる場合もありますし、産業医や人事担当者を介して伝えるルートもあります。一人で直接言わなくていい、ということを覚えておいてください。
Q3. 復職して2か月ですが、また休みたくなっています。再休職するしかないのでしょうか?
必ずしもそうとは限りません。「また休みたい」という感覚は、再燃のサインである場合もありますが、働き方の調整で乗り越えられるケースも少なくないです。まず主治医に正直に現状を伝えてみてください。時短勤務への切り替えや業務量の見直しで、再休職せずに安定できた方もいます。「休むか続けるか」の二択ではなく、「どう調整するか」という選択肢があることを知っておいてほしいです。
Q4. リワークとはどう違うのですか?どちらを使えばいいですか?
簡単に言うと、リワークは「復職前の準備」、両立支援は「復職後も含めた継続的なサポート」です。まだ職場に戻っていない段階であればリワークが適しています。一方、すでに復職しているけれど「なんとかギリギリ続けている」という状態なら、両立支援の仕組みを使いながら職場と医療機関が連携する形が向いているかもしれません。どちらが合うかは主治医と相談しながら決めるのがベストです。
Q5. 時短勤務や業務調整をお願いしたら、周りに迷惑をかけてしまいますか?
「迷惑をかける」と感じるのは自然な気持ちですが、少し視点を変えてみてください。無理をして短期間で再休職する方が、職場への影響は大きくなります。調整を受けながら安定して働き続けることは、長い目で見たとき周囲にとってもプラスになることが多いです。配慮を求めることは「弱さ」ではなく、「長く続けるための判断」だと思ってもらえると、少し楽になるかもしれません。
Q6. 主治医に「仕事がしんどい」と言えていません。どう伝えればいいですか?
診察って短いし、「大丈夫です」って言ってしまいがちですよね。よくわかります。一つ試してほしいのは、診察前にスマホのメモに「最近しんどいこと」を箇条書きにしておくことです。「帰宅後に動けない」「日曜の夜が怖い」「睡眠が乱れている」——そういった具体的な変化を紙に書いて渡すだけでも、主治医に伝わりやすくなります。「うまく話せなくてもいい、書いたものを見せるだけでいい」と思うと、少しハードルが下がりませんか。
Q7. 支援を受けることで、キャリアに影響が出ませんか?
「傷がつくんじゃないか」と心配される方もいます。ただ、療養・就労両立支援を利用したこと自体が人事評価や採用選考に直接影響するという根拠はありません。むしろ、無理をして体を壊して長期離脱する方が、結果的にキャリアへの影響は大きくなりやすいです。健康を守りながら長く安定して働き続けることが、長期的には自分のキャリアを守ることにもつながります。
Q8. 家族に心配をかけたくなくて、しんどさを隠しています。これはよくないですか?
気を遣う気持ちはよくわかります。でも、隠し続けることで無理が積み重なって、ある日突然動けなくなる——という経過をたどった方を何人も見てきました。家族は「元気そうだから大丈夫」と思っているかもしれませんが、実際にはギリギリという状態。そのギャップが、いざ倒れたときの混乱を大きくしてしまうこともあります。全部話せなくていいので、「最近ちょっと疲れている」くらいの一言から始めてみてください。


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