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生成AIの活用でメンタルヘルスとカウンセリングはどう変わった?病院臨床で感じる5つの変化

生成AI カウンセリング メンタルヘルス

少し前まで、生成AIは「これから社会を変えるもの」でした。

ChatGPTが出てきたころ、「仕事がなくなる」「いや人間にしかできない仕事は残る」みたいな話、あちこちでしていましたよね。私も何度か聞かれました。「先生、心理士の仕事ってAIに取られません?」って。

それが2026年の今、気づけばもう「これから」の話ではなくなっています。

メールを書く。文章を要約する。企画を考える。分からないことを調べる。仕事の相談をする。

そして、ときには自分の悩みまで相談する。

生成AIは仕事だけでなく、メンタルヘルスの領域にまで、するっと入り込んできました。

「仕事に行くのがつらい」
「人間関係でこんなことがあった」
「眠れないのはなぜだろう」
「自分は発達障害なのだろうか」

以前なら検索窓に打ち込んでいたようなことを、今は生成AIにそのまま話しかけられる。

しかも検索とは、ちょっと違うんですよね。

答えが返ってきたら、また聞ける。

「それはどういうこと?」
「じゃあ私はどうしたらいい?」

と、会話が続いていく。

生成AIが入ってきたのは、心理士の仕事の中だけじゃありません。クライエントの日常そのものに、もうAIがいる。

病院臨床にいると、こちらの変化のほうがずっと大きいんじゃないかと感じています。相談室だけが、生成AIのない世界であり続けるわけがないんですよね。

では、AIがいる世界で、メンタルヘルスとカウンセリングはどう変わっていくのでしょうか。今日感じている5つの変化を、順に書いてみます。

目次

1.「相談室に来る前」が、もう変わっている


これまで、何か悩みがあったときは、家族や友人に相談したり、インターネットで検索したり、本を読んだりしていました。

それでも整理できなければ、医療機関やカウンセリングにつながる。もちろん今も、この流れ自体はあります。

ただ、そこに新しい選択肢が加わりました。

「とりあえずAIに聞いてみる」

これ、メンタルヘルスとの相性が、ある意味とてもいいんです。

深夜でも返事をしてくれる。同じ話を何度しても怒らない。「こんなこと言ったら変に思われるかな」と顔色をうかがう必要もない。しかも返事が速い。

人間のカウンセラーとしては、

「こちらにも勤務時間というものがありまして……」

と、ちょっと言いたくなるところではあります(実際には言いませんが)。

もちろん便利だからといって、AIから返ってくる答えが正しいとは限りません。メンタルヘルスについてもっともらしい説明をしても、それが目の前のあなたに当てはまるとは限らない。

それでも、心理士に会う前に、自分のメンタルヘルスについてAIと何度も話している人がいる。これは臨床側が無視できない変化だと思っています。

これまでカウンセリングでは、

「ここに来るまで、誰かに相談しましたか?」

と聞くことがありました。

これからは場合によって、

「AIに相談したことはありますか?」

という問いが自然に加わっても、さほど不思議ではないのかもしれません。

2.「専門家が知っている」という前提も変わってきた


以前は、心理職とクライエントの間に、ある程度の情報格差がありました。心理士は心理学を勉強している。クライエントは、困っていることについて専門家から説明を受ける。そういう構図です。

もちろん今でも、専門的な知識と訓練は必要です。ただ「情報を持っている」ということだけなら、状況はかなり変わりました。

「認知行動療法について教えて」
「アサーションってどうやるの?」
「不安が強くなったときの対処法は?」

生成AIに聞けば、それなりの情報が数秒で返ってきます。

そのため、こちらが心理教育をしようとすると、

「それ、AIにも言われました」

ということも起こる。こちらが満を持して出そうとしていたカードを、AIが先に切っているわけです。……正直、ちょっと寂しいです。

とはいえ心理士にも社会性がありますので、

「それ、今日私が言おうと思っていたんですけどね」

とは、口が裂けても言いません。大人ですから。

でも私は、これは悪いことばかりではないと思っています。

心理士の役割が、「心理学を知っている人」から「その知識を、この人の場合はどう考えればいいのか一緒に考える人」へ変わっていく。

一般的な心理学の知識を持っていることと、目の前にいる一人の人間を理解することは、同じではありません。AIが知識へのアクセスを一気に広げたことで、その違いがむしろはっきりしてきたようにも思います。

3.クライエントのほうがAIに詳しい、という逆転


ここでもうひとつ、面白いことが起こります。

たとえば、こんな場面。

「最近、仕事で生成AIを使っているんです。資料を作ったり、議事録をまとめたり、自分の考えを整理するときにも使っています」

クライエントがそう話す。

カウンセラーは静かにうなずき、

「なるほど……その、ジェミニというのは、検索みたいなものですか?」

2026年である。

クライエントが生成AIについて説明し、カウンセラーが一生懸命理解する。一瞬、どちらが相談に来たのか分からなくなる。

でも、これは十分あり得る話です。

仕事で毎日生成AIを使っているクライエント。ほとんど生成AIを触ったことがないカウンセラー。ある領域について、クライエントのほうが圧倒的に詳しい。世界の変化が速いので、こういう「逆転」は、これからいろいろな場所で起きるでしょう。

では、この組み合わせではカウンセリングが成立しないのでしょうか。

私は、そんなことはないと思っています。むしろ、ここからがカウンセリングの面白いところです。

4.「分からないので教えてください」で、カウンセリングはできる


そもそも心理士は、クライエントの世界を全部知っているわけではありません。

その人の仕事。家族の文化。趣味。ゲーム。推し活。職場でしか通じない謎のルール。知らない世界は、いくらでもあります。

それでも私たちは、

「それって、どういうものなんですか?」
「もう少し教えてもらえますか?」
「そのとき、どう感じたんでしょう」

と聞きながら、その人が見ている世界を理解していきます。

生成AIについても、同じでいいのだと思います。

たとえばクライエントが、

「昨日、AIに相談したんです」

と話したとします。

そこで、

「AIなんて信用しないほうがいいですよ」

と切ってしまう必要はありません。反対に、

「AIはすごいですからね」

と無条件に肯定する必要もない。

「何を相談したんですか?」
「どんな答えが返ってきました?」
「それを読んで、どう思いました?」

と聞いていけばいい。

ここは、メンタルヘルスを考えるうえでも結構重要だと思っています。同じ「AIを使う」でも、使い方は人によってまったく違うからです。

仕事を効率化するために使っている。自分の考えを整理するために使っている。不安になるたび、安心するために何度もAIへ確認している。誰にも話せないことをAIだけには話している。AIの回答を読んで、逆に不安が強くなっている。

そう考えると、「AIを使っているか」より「その人がAIとどんな付き合い方をしているのか」のほうが、心理職にとってはずっと興味深い。AIとの対話そのものが、その人を理解するための新しい臨床情報になることもあるでしょう。

カウンセラー自身がAIに詳しくなくても、クライエントから教えてもらえばいい。そして、その訴えや考えを聞きながら、これまで培ってきた臨床経験や心理学的知見と照らし合わせる。

「この人に今、何が起きているのだろう」

と考える。必要なら介入する。ときには待つ。必要に応じて医師や他職種と連携する。

そこには、AIの操作技術とはまた別の専門性があります。

分からないことを分かったふりをせず、相手の世界を教えてもらう。その人が見ている世界を、その人の側から理解しようとする。そして専門家としての判断を重ねる。

考えてみると、これはずいぶん昔からカウンセリングで大切にされてきた姿勢です。AI時代の最先端の話をしていたはずなのに、気づいたらカウンセリングマインドの話に戻ってきました。

でも私は、ここが大事なんだと思っています。

5.それでも私は、AIを知りたい側にいる


ここまで書いておいてなんですが、私は個人的には生成AIを知りたい側です。

普段から実際に使っていますし、入門的なものですが「Claude 101」も修了しました。別にAIエンジニアになりたいわけではありません。AIの専門家を名乗るつもりもありません。

では、なぜ心理職である私が生成AIを学ぶのか。

理由はわりと単純です。クライエントが生きている世界が変わっているからです。

生成AIを仕事で使う人がいる。AIと壁打ちしながら考えを整理する人がいる。文章を書いてもらう人がいる。検索の代わりに使う人がいる。そして、悩みを相談する人もいる。

だったら私は、それを遠くから眺めながら、

「最近はそういうものがあるらしいですね」

で済ませたくない。自分でも触ってみたい。

何が便利なのか。どこまでできるのか。どんなところで間違えるのか。なぜ人はAIとの会話に安心することがあるのか。逆に、どこで物足りなくなるのか。

実際に使っていると、「これは便利だな」と思うこともあれば、「ずいぶん自信満々に言うなあ」と思うこともあります。しかも、それが間違っている。……このあたり、人間にもたまにいますよね。

だから、生成AIを学ぶ意味は「最新技術についていく」というだけではありません。AIを使っているクライエントが見ている世界を、自分でも少し体験しておく。私にとっては、その意味のほうが大きい。

AIの便利さを知っているから、頭ごなしに否定しない。限界も見ているから、必要以上に持ち上げない。

心理職が生成AIを知ることも、クライエントの生活を理解するひとつの方法だと思っています。

これは日本の相談室だけで起きている話ではない


生成AIとメンタルヘルスの関係については、すでに研究も進み始めています。

2025年に発表された31件のランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビュー・メタ分析では、若年層に対するAIチャットボットに、心理的苦痛を軽減する一定の可能性が示されました。

ただし興味深いのは、従来型の対話システムでは比較的一貫した効果がみられた一方、生成AIを用いたシステムについては、まだ有効性をはっきり結論づけられる段階ではないとされていることです。

2026年時点では、「AIによるメンタルヘルス支援なんて意味がない」と言い切るのも早い。かといって「もう人間のカウンセラーはいらない」と言うのも、ずいぶん気が早い。研究の世界でも、まだその途中にいるんですよね。

医療で生成AIを扱うことについては、WHOもすでにガイダンスを公表しています。生成AIが患者からの質問への回答、症状や治療について患者自身が調べる用途、診療記録の要約など、医療のさまざまな場面で利用される可能性を挙げつつ、誤った情報や偏った情報を生成するリスク、プライバシー、人間の自律性などへの配慮も求めている。

便利だから使えばいい。危ないから禁止すればいい。どうも、そんな単純な話ではなさそうです。

だからこそ、私は心理職も生成AIについて知っておいたほうがいいと思っています。「どう使うか」だけではありません。どこでは使わないのか。どこから人間が判断するのか。そこまで含めて考えるためです。

AIに相談できるなら、人間のカウンセラーは必要なのか


ここまで来ると、避けられない問いがあります。

「AIがこれだけ話を聞けるなら、カウンセリングもAIでいいのでは?」

心理職にとっては、あまり聞きたくない質問です。できれば、

「では次の話題にいきましょう」

と言いたいところですが、考える価値はあります。

生成AIは話を聞いてくれます。否定せずに応答することもできる。心理学について説明できる。考えを整理する手伝いもできる。これからさらに自然になっていくでしょう。

だから私は、「AIには絶対にカウンセリングはできない」と簡単に言い切るつもりもありません。

一方で、相談室には言葉だけではないものがあります。

「大丈夫です」と言いながら視線を落とす。いつもより声が小さい。今日は妙に明るい。話の途中で急に黙る。何かを言おうとして、

「……やっぱりいいです」

とやめる。こちらも何も言わずに待つ。しばらくして、また話し始める。

そういう時間があるんです。

そしてカウンセリングには、「誰かに話した」という出来事があります。正しい情報をもらったこととも、適切なアドバイスを受けたこととも少し違う。ある人との関係の中で、自分のことを話した。その経験自体が意味を持つことがあります。

生成AIが高度になればなるほど、「AIには何ができないか」を必死に探すより、人と人が会って話すとき、そこではいったい何が起きているのか。心理職自身が、改めて考えることになるのかもしれません。

世界は変わった。でも、カウンセリングの根っこは案外変わらない


生成AIによって心理士の仕事はなくなるのか。AIはカウンセラーの代わりになるのか。そうした議論はこれからも続くでしょう。

でも病院臨床にいると、もっと手前で、すでに変化は始まっているように感じます。AIを使って生活している人が、相談室にやってくる。もう、それが特別ではなくなり始めています。

クライエントのほうがAIに詳しいこともある。カウンセラーのほうが詳しいこともある。別に、どちらでもいいのだと思います。

心理士が知らなければ、

「それについて教えてください」

と言えばいい。クライエントから教えてもらい、その人の世界を理解しながら、臨床家として培ってきた経験と知識で考える。それでカウンセリングは成立します。

一方で、私はできるなら新しい世界を自分でも見ておきたい。だから生成AIを使うし、学びます。

AIについていくためというより、AIがいる世界で暮らしているクライエントについていくために。

考えてみれば、これは新しいようで、あまり新しくない話なのかもしれません。

分からないことを分かったふりをしない。相手の世界に関心を持つ。教えてもらう。その人にとって、それがどんな意味を持っているのかを考える。技術がどれだけ変わっても、この姿勢は変わりません。

生成AIが当たり前になった今、世界は確かに変わりました。でも、その変化を追いかけていった先で見えてきたのは、意外にも昔から変わらないカウンセリングの姿でした。

AIについていくことも大切です。

スマホの使い方も結局はついていったほうがよかったものですものね。

でも私たち心理職が本当についていきたいのは、AIではなく、目の前にいるクライエントなのだと思います。

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この記事を書いた人

臨床心理士として20年ほど活動しており、病院、地域、教育の方面で、お子様から成人、高齢の方まで関わっていました。医療・精神科・メンタルヘルス・認知行動療法に強い記事を執筆✍️ 子育て/発達支援/福祉の情報発信や、千葉・柏エリアの地域紹介も行います。
資格:臨床心理士・公認心理師・MOS

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