「MRIでは異常ありません。」
「血液検査も問題ありません。」
そう言われたにもかかわらず、痛みやしびれ、違和感が続いている。「異常がないなら安心してください」と言われても、自分の苦しさは変わらない。そんな経験をしたことはないでしょうか。
実際、痛みが続いているにもかかわらず、検査では原因が見つからないケースは珍しくありません。その結果、「自分の気にしすぎなのではないか」「誰にも分かってもらえない」と、一人で悩みを抱え込んでしまう方もいます。
しかし、検査で異常がない痛みは決して「気のせい」ではありません。
近年では、慢性的な痛みには脳や神経の働き、ストレス、不安など、さまざまな要因が関係していることが分かってきました。
この記事では、「検査では異常ない痛み」が起こる理由や、身体症状症との関係、そして痛みと心のつながりについて、臨床心理士の視点からわかりやすく解説します。
検査で異常がないのに痛みが続くのはなぜ?
私たちは「痛み=身体のどこかが壊れているサイン」と考えがちです。
もちろん、骨折や炎症などが原因で痛みが起こることもあります。しかし、数か月以上続く慢性的な痛みでは、それだけでは説明できないケースが少なくありません。
例えば、けがは治っているのに腰が痛い。頭痛の検査では異常がないのに毎日のように痛む。耳鳴りやめまいの原因が見つからないのに症状が続く。
こうした場合、身体そのものだけでなく、脳や神経の働き方が関係している可能性があります。
痛みは、身体だけで感じているわけではありません。脳が「危険だ」と判断したときに生まれる感覚でもあります。
そのため、身体に大きな異常がなくても、脳の警戒モードが続いていると、痛みを感じやすい状態になることがあります。
身体症状症とはどのような状態なのか
身体症状症とは、痛みやしびれ、息苦しさ、動悸、胃腸の不調などの身体症状が続き、それによって日常生活に大きな支障が出ている状態をいいます。
大切なのは、「症状が想像上のもの」という意味ではないことです。
本人は実際に苦痛を感じています。
ただ、その症状への不安が非常に強くなり、生活の中心が「症状を何とかしなければ」という思いで占められてしまうことがあります。
相談室でも、
「一日中、身体のことばかり考えてしまいます。」
「少し痛むだけで重い病気ではないかと不安になります。」
という声を耳にすることがあります。
これは珍しいことではありません。
身体症状症では、症状そのものだけでなく、「症状へのとらわれ」が苦しさを大きくしてしまうことがあるのです。
「気のせい」と言われることが苦しさを深める
検査で異常が見つからないと、
「考えすぎじゃない?」
「ストレスだから気にしなくていいよ。」
と言われることがあります。
もちろん、励ますつもりで言っている人もいるでしょう。
しかし、本人にとっては、「この苦しさを否定された」と感じることも少なくありません。
痛みは脳で感じる感覚です。
だからといって、「気の持ちよう」や「根性」で何とかなるものではありません。
実際には、脳・神経・身体・心理・生活環境が複雑に影響し合って、痛みが続いていることがあります。
「異常がない」と「痛みが存在しない」は、まったく別の話です。
まずはそのことを知るだけでも、自分を責める気持ちが少し和らぐ方は少なくありません。
不安は痛みを強く感じさせることがある
慢性的な痛みでは、「また痛くなるかもしれない」という不安が生まれやすくなります。
すると、人は無意識のうちに身体の変化を細かく確認するようになります。
朝起きた瞬間に体調を確認する。
少し違和感があるだけで不安になる。
インターネットで症状を何度も検索する。
外出や運動を避けるようになる。
この流れは自然な反応ですが、結果として痛みに注意が集中し、「やっぱり痛い」という体験を繰り返しやすくなります。
心理学では、注意を向け続ける対象ほど意識されやすくなることが知られています。
つまり、不安が強くなるほど、痛みも感じやすくなるという悪循環が生まれることがあるのです。
回復への第一歩は「痛みを理解すること」
痛みをなくそうと努力すること自体が悪いわけではありません。
しかし、「どうして自分だけ治らないのだろう」と自分を責め続けることは、心にも身体にも大きな負担になります。
近年では、慢性痛や身体症状症に対して、薬だけではなく心理学的な支援も組み合わせる考え方が広がっています。
痛みを正しく理解し、不安との付き合い方を学ぶことは、生活を取り戻すための大切な一歩です。
まとめ
検査で異常がない痛みは、決して「気のせい」ではありません。
身体症状症や慢性痛では、身体だけでなく脳や心理的な要因も関係しながら、痛みが続いていることがあります。
だからこそ、「異常がないから我慢する」のではなく、「痛みが続く仕組みを理解する」ことが回復への第一歩になります。
次回の記事では、多くの方が悩む「また痛くなるかも」という不安はなぜ生まれるのかをテーマに、痛みと不安の悪循環について心理学の視点から詳しく解説します。
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