今日も仕事を引き受けてしまった。
断りたかったのに。
言いたいことがあったのに、その場では「はい、わかりました」って言ってた。
帰り道、電車のなかでぼんやりしながら「どうして言えなかったんだろう」って考えてしまう。
そんな夜、ありませんか。
私はカウンセリングや復職支援の現場で長年働いているんですが、こういう話を本当によく聞くんです。「断れなくて」「言えなくて」「伝わらなくて」——そのたびに少しずつ削れていく感覚。
これ、能力の問題でもなければ、性格の問題でもありません。
むしろ、真面目で、相手のことを大切にしている人ほど陥りやすいパターンだと思っています。
なんで「言いたいことが言えない」のか
少し考えてみてほしいんですよね。
断れない自分って、けっして弱い人間なわけじゃないですよね。「嫌われたくない」「迷惑かけたくない」「空気を悪くしたくない」——そういう気持ちって、ものすごく人間らしいじゃないですか。
ただ、それが積み重なると何が起きるかっていうと、
自分の限界をとっくに超えているのに引き受け続けて、ある日突然「もう無理」ってなる。
カウンセリングでも、こういう状態でいらっしゃる方が本当に多くて。「断れない自分がダメなんです」とおっしゃるけど、ちがう、ちがう、って思うんですよね。断れないのは、あなたがダメなんじゃなくて、伝え方のコツをまだ知らないだけなんです。
そのコツが「アサーション」です。
アサーションって何? ざっくり説明します
「アサーション」って言葉、聞いたことありますか?
心理学の世界では、「自分も相手も大切にする自己表現」と言われています。
「我慢する」でも「攻撃する」でもない、その真ん中にある伝え方のことです。
たとえばこんな場面を想像してください。
上司に突然「来週の土曜、出てこられる?」と言われた。
本当は予定があって、正直しんどい。でも断ったら印象が悪くなるかも……。
で、「えっ、はい、大丈夫です」って言っちゃう。
でも、アサーションで考えるとこうなります。
「来週の土曜日は実は予定が入っていて難しい状況なんですが、週明け月曜から対応することはできます。そちらで間に合いそうでしょうか」
これ、断ってるんだけど、攻撃的じゃないですよね。相手の事情も考えた上で、代替案も出している。
同じ「断る」でも、ずいぶん違うんです。
実際の現場で見てきた話をします
失敗談①「正直に言ったのに、なぜか炎上した」
Aさん(30代・男性・メーカー勤務)の話です。
彼はある日、上司に「正直に言おう」と思い立って「あの指示、意味わからないんですけど」と言ったんです。正直に言ったのに、なぜか上司がものすごく不機嫌になって、その後しばらく関係がぎくしゃくしてしまった。
「正直に言ったのに、なんで?」って、Aさんは混乱していました。
これ、何が起きたかというと——伝え方が「攻撃的」に受け取られてしまったんですよね。本人はそんなつもりなかったし、内容として間違ってもいない。でも「意味わからない」という言葉が、上司には批判として届いてしまった。
アサーションで言い直すとこうなります。
「あの指示についてなんですが、自分の理解が合っているか確認させてください。〇〇という解釈でよかったでしょうか?」
内容はほぼ同じです。でも、全然ちがう届き方になります。
失敗談②「我慢し続けて、限界で爆発した」
Bさん(40代・女性・事務職)は「職場の雰囲気を壊したくない」と思い、ずっと言いたいことを飲み込んでいたんです。
仕事を押しつけられても、「はい」。理不尽な対応をされても、「はい」。
で、ある日、ちょっとしたことでスイッチが入って、思っていた以上に強い言葉が出てしまった。相手も、Bさん本人も、びっくりするくらい激しい言葉が。
「自分でも、なんでこんなに言ったのかわからなくて……」
これは、我慢が限界に達したときの「爆発型」のパターンです。溜めすぎてしまうと、ある瞬間にコントロールが効かなくなる。だから普段から少しずつ、小さく伝えることが大事なんですよね。
「あの件なんですが、正直ちょっとしんどくて。少し相談させてもらえますか」
こんな一言が言えていれば、爆発を防げたかもしれない。
成功談「言ったら、意外とあっさり解決した」
Cさん(20代・女性・IT企業)は、チームリーダーから毎回「これもやっといて」と頼まれるのが地味にストレスで。でも「断ったら迷惑かな」と思ってずっと受け取っていた。
カウンセリングで「一回、正直に言ってみましょう」と話し合いました。
「今手元にある業務量だと、正直これ以上引き受けるのが難しい状態です。優先順位を一緒に整理してもらえると助かります」
そう伝えたら、リーダーは「え、そんなに抱えてたんだ、ごめんごめん」とあっさり。
Cさんは「もっと早く言えばよかった!」と笑っていました。
相手は意外と、あなたの状況を知らないだけということが多いんです。
「どうせ伝わらない」と思っているあなたへ
アサーションを知ると、ついこんな反応をする人がいます。
「でも、そんなきれいごと、うちの職場では通じません」
気持ちはわかります。本当に。
特にハラスメント体質の職場や、感情的な上司がいる環境では、一筋縄ではいかないこともある。
ただ、一つだけお伝えしたいのは——アサーションは「相手を変える技術」じゃないということです。
アサーションは「自分が後悔しない言い方をする技術」なんです。
言ったか言わなかったかで、帰り道の気持ちが変わります。ちゃんと言えた、という手応えが、自分の心を守ってくれることもある。
この本で扱っている場面
今回、こういった現場での経験をもとに、
『職場のアサーション実践例まとめ ― 言えない・誤解されるを変える具体的伝え方』
という本をまとめました。
理論より会話例、が主役です。
読んだその日から試せるように、という考えで書いています。
扱っている場面をざっくり紹介すると——
上司との会話では、無理な依頼の断り方、評価面談で意見を伝えるとき、残業を減らしたいときの切り出し方。
同僚との会話では、仕事を押しつけられたとき、誤解が生まれたとき、モヤモヤを溜めずに伝えたいとき。
部下との会話では、注意や指導が伝わらないとき、関係を壊さずにフィードバックしたいとき。
それと、メール・チャットの言い回しも入れています。テキストって顔が見えない分、誤解が生まれやすいので。断り方、依頼の仕方、冷たく見えないちょっとしたコツなど。
「コミュニケーション能力が高い人」は生まれつきではない
「あの人はうまく伝えられてうらやましい」
そう思ったことがある方、けっこういると思います。
でも、そういう人と話してみると「昔は全然ダメだった」って言うんですよね。けんか腰に言って失敗したり、言えなくて後悔したり——そういう積み重ねの末に、いまの話し方がある、っていうパターンが多い。
伝え方は、練習できます。
性格を変えなくていい。キャラを変えなくていい。
「言葉の選び方」「タイミング」「伝える順番」——こういった技術は、少しずつ身につけられるものです。
最後に
「また断れなかった」と思いながら帰る夜は、すごく消耗しますよね。
その消耗、ずっと続けなくていいんですよ。
言い方には、コツがある。
そしてそのコツは、知ってから練習すれば、必ず使えるようになります。
この本が、職場での「言えない」「伝わらない」を少し楽にするきっかけになれば、うれしいです。
書籍はこちら
『職場のアサーション実践例まとめ ― 言えない・誤解されるを変える具体的伝え方』
断れずに仕事を抱え込みやすい方、人間関係のストレスが多い方、部下指導に悩んでいる方、復職後のコミュニケーションが不安な方——どなたでも読みやすい内容になっています。
ぜひ一度、手に取ってみてください。


コメント