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「成果を出すこと」より「回復できること」が強さになる時代

レジリエンス・回復力・メンタルフィットネスから考える、新しい働き方

「もっと頑張らないと。」

仕事で疲れたとき、そんな言葉が頭に浮かぶことはありませんか。

精神科で長く仕事をしていると、こうした言葉を本当によく耳にします。

もちろん、頑張ること自体は悪いことではありません。私自身も、心理職になる前は新聞配達をしたり、飲食店で働いたり、水商売で人生相談を受けたり、本当にいろいろな仕事を経験してきました。「今日は踏ん張りどころだ」と歯を食いしばる日が必要なこともあります。

でも、20年近く相談室で多くの方とお会いしてきて思うのは、長く働き続けている人は、「一番頑張れる人」ではないということです。

疲れたら休める人。

困ったら相談できる人。

そして、少し元気を取り戻してまた戻ってこられる人。

そういう人のほうが、結果として長く、自分らしく働き続けているように感じます。

最近はAIの普及や働き方の変化もあって、「どれだけ成果を出せるか」だけでは測れない時代になりました。

これからは、「回復できること」そのものが、一つの強さになっていくのかもしれません。


目次

レジリエンスの誤解

レジリエンスという言葉を聞くと、「打たれ強い人」を思い浮かべる人が少なくありません。

どんなことがあっても落ち込まない人。

ストレスに負けない人。

いつも前向きな人。

そんなイメージでしょうか。

でも、私は少し違う見方をしています。

相談室で出会う「回復していく人」は、決して落ち込まない人ではありません。

ちゃんと落ち込みます。

悩みます。

眠れない夜もあります。

それでも、「またやってみようかな」と少しずつ前を向ける。

この「戻る力」こそが、レジリエンスなのだと思っています。

レジリエンスは、鉄のように折れない心ではありません。

竹のように、しなって、戻ってくる力です。

折れないことを目指すより、「戻れる自分」を育てるほうが、現実的で、長く役に立つように感じます。


回復できる人の共通点

では、回復が上手な人にはどんな特徴があるのでしょうか。

私が臨床で何度も見てきた共通点があります。

それは、「全部一人で何とかしようとしない」ということです。

例えば、こんな方がいます。

仕事ができて、周囲からも信頼されている。

でも、少し疲れてきたタイミングで「今日は早めに帰ります」「この件、少し相談してもいいですか」と自然に言える。

一方で、とても責任感が強い人ほど、「まだ大丈夫です」が口ぐせになりやすいんですよね。

そして本当に限界が来てから相談に来られる。

そんな場面も少なくありません。

回復が上手な人は、自分の状態を観察するのが上手です。

「最近ちょっと無理しているな」

「少し休んだほうがいいかも」

そんな小さなサインを見逃しません。

これは才能ではなく、少しずつ身につけられる技術です。


メンタルフィットネスという考え方

最近は「メンタルヘルス」だけではなく、「メンタルフィットネス」という言葉も聞くようになりました。

私はこの考え方が、とても好きです。

体を鍛える人は、風邪をひいてから筋トレを始めるわけではありませんよね。

元気なうちから少しずつ体を整えています。

心も同じです。

大きく調子を崩してから慌てるのではなく、普段から少しずつ整えておく。

それがメンタルフィットネスです。

ここで大切なのは、「いつも元気でいること」を目標にしないこと。

そんな日ばかりではありません。

私たちは人間ですから、落ち込む日もあれば、何もしたくない日もあります。

でも、「今日はちょっと調子が落ちているな」と気づいて、自分なりの回復方法を使えるなら、それも十分なメンタルフィットネスです。

CBTでもACTでも、「症状をゼロにすること」だけを目指すわけではありません。

問題があっても、自分の人生を少しずつ進められることを大切にします。

私はその考え方に、とても共感しています。


職場が回復力を支える理由

レジリエンスというと、「本人の努力」で何とかするものと思われがちです。

でも、本当にそうでしょうか。

相談室で話を聞いていると、同じ人でも職場が変わるだけで表情まで変わることがあります。

安心して相談できる上司がいる。

「それ大変だったね」と言ってくれる同僚がいる。

失敗しても、「じゃあ次どうしようか」と一緒に作戦会議をしてくれる人がいる。

そういう環境では、人は驚くほど力を取り戻していきます。

私は支援とは「治してあげること」ではなく、「作戦会議」だと思っています。

一緒に状況を整理して、「次はどうしてみようか」と考える時間です。

子どもが安心できる親を安全基地にして外の世界へ挑戦するように、大人にも安全基地が必要です。

挑戦する。

失敗する。

戻ってくる。

少し休む。

また挑戦する。

この繰り返しがあるから、人は少しずつ前へ進めます。

「人は人によって回復する。」

これは私が20年近く現場で感じ続けてきたことです。


今日から始める小さな習慣

では、回復力はどう育てればいいのでしょうか。

特別なことを始める必要はありません。

例えば、

  • 「今日は疲れているな」と自分に声をかける
  • 仕事が終わったら、頭も一緒に退勤させる時間をつくる
  • 「これくらい一人でやらなきゃ」を少し手放してみる
  • 信頼できる人と作戦会議をしてみる
  • 「今日はこれで十分」と一日を終える練習をする

どれも地味です。

でも、回復というのは、案外こういう地味な積み重ねでできています。

派手な方法より、続けられる方法。

私はそのほうが、長い目で見ると強いと思っています。


おわりに

働くことは、短距離走ではありません。

ライブで言えば、一曲だけ全力で演奏するのではなく、最後のアンコールまで演奏し続けるようなものです。

途中で水を飲むこともあります。

少しテンポを落とすこともあります。

バンドなら、隣のメンバーに音を預ける瞬間だってあります。

それでも演奏は続いていきます。

働くことも、少し似ている気がします。

これからの時代に求められるのは、一度も疲れない人ではありません。

疲れても戻ってこられる人。

助けを借りられる人。

そして、「またなんとかできそうです」と思える人です。

回復とは、問題がゼロになることではありません。

問題があっても、「これならやっていけるかもしれない」と感じられることです。

もし今、少し疲れているなら、「もっと頑張る方法」を探す前に、「どうすれば戻りやすくなるだろう」と考えてみてもいいかもしれません。

その問いは、自分を甘やかすためではありません。

これから先も、自分らしく働き続けるための、大切な問いになるはずです。

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この記事を書いた人

臨床心理士として20年ほど活動しており、病院、地域、教育の方面で、お子様から成人、高齢の方まで関わっていました。医療・精神科・メンタルヘルス・認知行動療法に強い記事を執筆✍️ 子育て/発達支援/福祉の情報発信や、千葉・柏エリアの地域紹介も行います。
資格:臨床心理士・公認心理師・MOS

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